二人が村に到着したのは、つい昨日のことだ。
長旅で疲れているだろうに、ルージュはそんな素振りも見せずに早速占ってくれた。
しばらく水晶玉を見つめ、
「……何者かが河に雷魚を放流する所がみえました。黒いスーツ姿の男です」
「なんだって!?」
僕は思わず声をあげた。
たしか異変が起こる数日前、観光客の中にそんな格好をした男がいたことを思い出したからだ。
その時男の格好が、頭から足の爪先まで全身黒ずくめだったので妙に印象に残っていたけど……。
ルージュはさらに言葉を続けた。
「……河イルカの住みかに邪悪な気配を感じます。何か人ならざるものの力を……」
二人を舟にのせ、僕は舵をとって舟を進めていく。
「竜馬、大丈夫?」
「だ、大丈夫ぜよ……………………………うげっぷ」
船酔い体質なのか、竜馬は真っ青な顔をして気持ち悪そうに口を抑えている。大丈夫かなぁ…………。
「ルージュ、そろそろ河イルカの住みかだよ」
「そうね、水晶玉の反応も強くなってきたわ」
ルージュが両手に持っている水晶玉を、ジッと見つめている。
やっぱり美人だなぁ…。
舟をこぐのも忘れて、僕はルージュの横顔に見ほれた。
と、ルージュがこっちを向いた。
「どうしたの?」
「い、いや、なんでもないよ」
彼女に見つめられ、僕はとっさに目をそらした。なんだか気恥ずかしい。
そのとき。
キュキュキュイーーーン!
河イルカの鳴き声が聞こえた。
一頭だけじゃない。いつのまにか数頭の河イルカたちが、舟の周りに集まっている。
「見て、この子たち……すごく傷ついているわ」
ルージュの言葉どおり、河イルカたちの体には無数の傷がついていた。小さくつぶらな瞳に浮かぶ光は弱々しく、見ていて痛々しい。
「酷いもんじゃ……。イルカがふびんでたまらんぜよ」
竜馬が目を伏せて呟く。
キュキューーーーーッ!!!
イルカたちが急に悲鳴に近い鳴き声をあげ、まるで何かから逃れようとしているみたいに暴れ出した。
「!!」
ルージュと竜馬の顔の表情が、さっと険しくなる。
濁った河の中から、どうみても普通の倍以上の大きさの雷魚の群れが現れ、イルカたちに襲いかかってきた。
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