聖なる河 (前編)

キュキュキューーーン!!!

 逃げ惑うイルカたちの悲痛な叫びが辺り一面に轟き、河の水がみるみるうちに赤黒く濁っていく。
この凄惨な光景に僕たちは、言葉を失っていた。
「…………許さんぜよ!」
 竜馬が怒りのあまり腰に差した刀に手をかけるが、それをルージュが制した。
「待って竜馬! ものすごく大きい邪気の塊がこっちに近づいてくるわ!」
ルージュの言葉が終わるやいなや、

グラッ!!

突然舟が大きく揺れ動く。

「うわっっ!??」
 僕は必死でオールを握り締め、なんとか舟の体勢を保とうとしたその瞬間、河の中から何か巨大な陰が浮かび上がった。

(何だ、あれは!?)
そう思う間もなく、舟が転覆し僕たちは河へ投げ出される。

ザバァァーーーーーーン!!

 視界が暗転し、僕の意識はここで途切れた。

 気がつくと、僕は丸太か何かに乗せられて水面の上に浮かんでいた。
意識がはっきりしてよく見ると、丸太だと思っていたものは血まみれになっている河イルカであった。

「……君が助けてくれたのかい?」
僕の問いに答えるかのように、イルカがキューンと鳴いた。

「そうだ! ルージュは? 竜馬はどうなったんだ?!」
僕は二人の姿が見えないのに気づき、辺りを見回した。

 ……………………いない。
まさか、あの巨大な影に食べられたんじゃ……?

 僕は目の前が真っ暗になった気がした。