「竜馬ぁー、こっちこっち!」
「ま、待ってくれ、タシ! そんなに早く走ると危ないぜよ」
「早くしないとルージュの踊りが始まっちゃうよー! ホラ、急いで!」
「うぅ……わし、足が筋肉痛なのに……」
あれから3日後。
村では、年に一度の祭が盛大に行われた。
一時は雷魚騒動で中止になりかけたが、ルージュと竜馬があの巨大雷魚を退治してくれたおかげで、今年も無事行われることができた。
あれから雷魚たちはすっかり姿を消し、河に魚たちが戻ってきた。
河イルカたちも動物ボランティアの手厚い保護を受けて、じょじょに傷を癒している。村は活気を取り戻しつつあり、以前のように観光客が大勢やってくるようになってきた。
それにしても……あの黒ずくめの男は一体何者なんだろうか?
何のために河に雷魚を放流したのだろうか?
僕にはさっぱりわからない。
ただわかることは、あの男が悪者でルージュたちはそいつの企みを阻止するために、パワーストーンという不思議な石の力で変身して戦っているということだけだ。
それはともかく、村や河イルカが救われたのはルージュたちのおかげだ。
二人は、村のみんなからものすごく感謝されまくった。
さらにルージュは、村の長老に「河の神に捧げる舞を踊って欲しい」と頼まれ、祭に参加することになったのである。
「おっ、そろそろ始まるぜよ」
竜馬が僕に耳打ちをした。
河の岸辺にせりだしたやぐらの前に、大勢の人が詰めかけている。
ものすごい人混みに押されながら、僕と竜馬はなんとか最前列に行くことができた。
やがて、やぐらの上の舞台にきらびやかな衣装をまとったルージュが現れた。
太鼓や笛の音に併せて、軽快なステップで踊りはじめる。
闇夜をバックに踊るルージュをみて、見物客たちが一斉にどよめいた。
「美しい」
「まるで天上の女神のようだ」
と、皆が口を揃えてルージュを絶賛している。たいまつの火に照らされながら踊るルージュの姿は、僕の目から見てもこの世のものとは思えぬほど美しかった。
「ルージュ、きれいだね」
「あぁ……たいしたものぜよ」
竜馬は上の空であった。ルージュが眩しすぎて見てられないって感じだ。
しばらくして。
ルージュの周りに淡い小さな光がいくつか漂いはじめた。
「……蛍だ!」
僕は思わず声をあげた。
蛍はルージュと踊りを楽しむかのように数を増やしながら、辺り一面を乱舞している。
いつのまにか、河から河イルカたちが岸辺に集まってきて、音楽に併せて歌い出した。
「おお、こりゃすごいぜよ」
「村の伝説ではね、河イルカは死んだ人の魂を天国に運んでくれるんだって」
と、僕は竜馬に説明してあげた。
「なるほど。蛍は死人の魂と言われているからあながち本当かも知れんきに」
竜馬は感心したように応える。
僕と竜馬、そしてその場にいる者全員、この幻想的な舞台にしばし酔いしれた。
『聖なる河』は、静かに流れていた。
<END>
聖なる河 / パワーストーンシリーズTOP / textへ戻る