シルクの冒険心

 ジュリアの退屈は極限に達していた。
あれほど大好きだったピアノやオペラ鑑賞も友人たちのとのお喋りでさえも、今の彼女の心を満たしてくれない。
(…………何か物足りないわ。もっと心がウキウキするようなことがないのかしら……)
彼女は退屈で退屈でたまらなかった。



 あの時、崩壊する浮遊城からどうやって脱出したのかは、まったく覚えていない。
ただ気がついたら、大きなコーヒーカップの中に入って海の上を漂っていた。
「どうしましょう…………」
 なにがなんだかわからなくて途方に暮れているジュリアの目の前に縄梯子がスルスルと降りてきた。
見上げると赤いプロペラ飛行機が飛んでいる。
「大丈夫かい?」
縄梯子を降ろしてくれたパイロットの声は、聞き覚えのある男性のものであった。

「おお、ジュリア! 無事に戻ってきてくれてよかった!!」
「あなたの事が心配で心配でとにかく心配で……本当によかった」
 紆余曲折を経て我が家に戻ったら、目の下にくまをつくって彼女の帰りを待っていた両親が、なりふりかまわずオイオイ泣いて、彼女を抱き締めてきた。

(あぁ……おうちに戻れたのね…………。夢じゃないのね)
 ムギューと苦しくなるくらい抱きしめられて、ジュリアは、安堵と両親への申し訳ない気持ちで胸が一杯になった。
 
 それから数日後。家に一人の女性が訪ねてきた。
その女性はルージュと名乗り、ジュリアの心の奥に潜む『もう一人の人格』のことを解決すべくジュリアの両親の依頼でやってきたのだという。
 ルージュいわく
『パワーストーンの力でもう一人の人格を封じることは難しいが、二つの人格を共存させつつ融合していくことはできる』そうだ。

「難しくてわからないけど、それってわたしと『もう一人の私』が一緒になるってことなのですか?」
「ええ、そうよ。このまま放っておけば、いずれあなたも『彼女』も壊れてしまう。だから『彼女』の存在を否定せずに受け入れてあげて」
 彼女の言葉に、ジュリアはしばらく無言で考えた後、首をゆっくり縦に振って答えた。

「………………わかりました。 私、こう思うんです。
 『彼女』は愛されたくても誰にも気づいてもらえず、ずっとさみしい思いををしてきたのだと。私もひとりぼっちはいやですもの。『彼女』のさみしい気持ちはよくわかりますわ」


 それから数か月たったころ。
 人格融合の影響なのか、ジュリアの性格は以前よりも明るく積極的になった。言い方を変えれば、「おてんば」になったというべきか。

「………………そうだわ! こういう時は冒険するにかぎるわ!」
 思い立ったが吉日とばかりにクローゼットを景気よく開け、取り出した愛用の小さなトランクに服やらなんやら旅に必要な物をつめこんでいく。両親に内緒でこっそりそろえておいた護身用のグッズも忘れずに。


「さぁて、今度はどこにいきましょうか?」
  ジュリアの未知への興味が、どんどん増していく。
この世界には自分が見たことや聞いたことがないところが、知らないことがまだまだたくさんある。
もしかしたら、あの浮遊城で出会った人たちともう一度どこかで会えるかもしれない。
 そう思うといてもたってもいられない。ワクワクドキドキする気持ちが止まらない。
心の奥の『もう一人の自分』もなんだか嬉しそうだ。


「お父様たちへの置き手紙も書いたし、いきましょうか!」
ジュリアは手にした愛用の傘を開くと、窓から軽々と飛び降りていった。

<END>


あとがき

昔サイトにうpしていたパワスト小説。(再録に当たり加筆修正)
パワスト2のジュリア捏造EDです。(ゲームではキャラ別エンディングがなかったので)
一応パワスト知らない方々に説明すると、ジュリアはいかにも深窓の令嬢といったキャラなんですが、実は二重人格で変身後の姿が女王様スタイルというとんでもない設定です。(いやマジで

前述のとおり、パワスト2にはキャラ別EDがないので、もしジュリアEDがあったらこんな感じなんだろうなと想像して執筆しました。(ねつ造ともいう