空へ

ブロォォォ……

 プロペラ音が軽快に響く。
「やっほーい! あやめ、最高だろ?!」
「うんっ!!」

 あやめはご機嫌だった。
フォッカーに無理やり頼み込んでホッケンハイム号に乗せてもらい、空の旅を楽しんでいた。

 目が醒めるような青い空。まるで綿アメのような白い雲に、頬に当たる風の心地よさ。
飛行機から見下ろした街はまるで、精密な点描画のように見える。
あやめにとって、どれもこれも生まれてはじめて味わう、驚きと新鮮さにあふれた体験であった。

(空を飛ぶことがこんなに楽しいものだったなんて!!)
 あやめは、この飛行機を手足のごとく自在に操縦している
フォッカーを見て、ちょっぴりうらやましく思った。
「ねぇ、アクロバット飛行やって見せてよ!」
「おいおい、無茶いうなよ!」
 突然の要求に、フォッカーは慌てた。
ゴーグルの奥の瞳はこの空と同じ色をしている。
「ねーやってよフォッカー! グルグルーっと回ってさ!ねぇってばー!!」
「……しょうがないな、一回だけだぞ」フォッカーは渋々承知した。どうもあやめのおねだりパワーに弱い。
「じゃ、いくぜ!しっかりつかまってろよ!」
そういってフォッカーは操縦桿を握り締める。機体が空中でくるっと大きく弧を描く。
「きゃー! スゴイスゴーイ!!」
後部座席であやめは大きく手を挙げてはしゃいだ。
「ね、ね、もう一回やって!」
「え~、一回だけっていったじゃないか」
「やってくれなきゃ、脇の下くすぐっちゃうぞ!」
「わ~っ、それだけはやめてくれ~~!!」

プスン。ガタガタガタ……

 突如、妙な音と黒い煙を出してプロペラの回転が遅くなった。

「え!? 何?! 何が起こったの?」
「やべぇ!エンジンがトラブった!」
 フォッカーの顔が青ざめていく。

そして、プロペラが完全に止まり、機体はまっ逆さまに海へ墜ちていく。

「うわ~~~!?!」
「お~ち~るぅ~!!!」

二人の絶叫が大空にこだました。

「トホホ……こないだ整備したところだったのに……」
 フォッカーは波間に漂う愛機の残骸を見下ろしてぼやいた。
彼は今、戦闘機を思わせるフォルムの真紅の鎧をまとった超人の姿になっていた。墜落寸前にとっさに変身し、あやめを抱き抱えて脱出したのだ。
「ごめんね、フォッカー。あたしがあんなこと言ったばっかりに、こんなことになって……」
「気にすることないよ。あとで回収して直せばいいからさ」
 それよりどこか陸地へいこう。
フォッカーは微笑んだ。

 その瞳は金色に変わっている。
けれど、瞳に浮かぶ優しい光は変わってない。
それを見て、あやめは安堵の笑みを向けた。
自分を抱き抱えている両腕は、見かけと違い暖かい。
フォッカーの体温が伝わってくる。

(もう少し、このままでいたいな……)
そう思い、頭をちょこんと彼の胸に当てた。

 <END>

BGM:Like Uncolored Velvet「空へ」


あとがき

へい、昔サイトにうpしてたフォッカー×あやめSSだす。改めて読み返してみるとなんかこっぱずかしい……orz
pixivから再録するにあたって少し修正しました。
ちなみにLike Uncolored Velvetはアニメ版パワスト後期OP担当のグループです。