突然壁から目もくらむような光がほとばしった。
あわや壁の中に引きずりこまれかけたルージュの全身をあっという間に包み込んでいく。
「何が起きたの?」
両腕が壁から抜け、その場に座りこんだルージュが唖然として呟く。
そして光の洪水が徐々に引いていき、光の中からひとつの影が現れた。
それは、桜色の忍者衣装をまとった少女---あやめであった。
「や、やっと出られた……」
そう呟くと、あやめはバタリとその場に倒れこむ。
「あやめちゃん、大丈夫?!」
ルージュが慌ててあやめを抱えると、同時にあやめの変身が解け、元の浴衣姿に戻った。
「あやめ、ルージュ! 一体何があったんだ!」
バターン!!と部屋のドアが大きく開き、フォッカーと竜馬が血相を変えてなだれ込んできた。
ドアの向こうで宿の主人が真っ青な表情で合鍵を握り締めて立っている。
「フォッカー……………………恐かったよぉぉ!!」
あやめがフォッカーの元へ駆け寄り、その胸に抱きついた。
「もう大丈夫だよ……」緊張の糸が切れて泣きじゃくるあやめの頭を優しく撫でる。
と、その時。
あやめが脱出した壁から、黒い手のようなものが十数本伸びてくるではないか。
それはフォッカーにしがみついているあやめを狙って来ている。
「うわっ!!?」
間一髪フォッカーがあやめを抱えてそれをかわした。
が、黒い手は執拗にあやめを狙ってくる。
「でりゃあああああ!」
竜馬が素早く刀を抜き、黒い手を数本切断する。
切り落とされた手は床の上に落ちると煙のように消滅した。
「竜馬、壁を狙って! おそらく本体は壁の中よ!」
「わかったぜよ!」
ルージュの指示に従い、竜馬が素早く壁の近くに跳躍する。
あやめを抱えたフォッカーを追いかけ回していた黒い手たちが、竜馬に気づいて襲いかかる。
だが、時すでに遅し。
「うおおぉおっ!!」
竜馬は渾身の力を込めて壁に深々と刃を突き刺した。
次の瞬間、
「ウボアァァァァーーーーー!!!!」
何者かの断末魔の叫びが部屋中に響き渡る。
それは徐々に弱くなっていき、やがて消えていった。
と、同時に、竜馬に襲い掛かっていた黒い手たちも、煙のようにふっ……と消えていった。
フォッカーたちは何も言わず、刀の跡がついた壁をジッと見つめていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
宿を出た4人は街道を歩いていた。
「……しかし、昨日のアレは一体何だったんだろうなぁ」
泣き疲れて眠っているあやめを背負いながら、フォッカーは首をかしげてつぶやいた。
「宿の主の話では、何百年か前にも若い娘が次々と神隠しにあう 事件があったそうぜよ」
「本当か? 竜馬」
「なんでも一晩中見張っていたら、壁の中から男が現れて娘を壁の中へと引きずりこんで消えていったらしいきに」
「なんだって?!」
フォッカーは絶句した。
「その時、宿に泊まっていた旅の女剣士が、不思議な石の力でその男を成敗したそうじゃが……」
竜馬の話にルージュは目を伏せて呟いた。
「私にもあの男が何者なのか、何の目的で現れたのかはよくわからないわ。
……でも、これだけはわかる。
あれはこの世界のものではない存在だってことが……」
<END>
昔サイトにうpしていたパワスト小説の再録。初出は今は亡きパワーストーン公式掲示板です。
かなり昔の心霊特番「あなたの知らない世界」のとあるエピソードが元ネタだったり。
ちなみにこの作品を書いた当時、夜中に部屋の壁が気になって眠れなくなってしまった思い出が(笑)
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