「なんということだ…………まさか伊集院炎山まで出てくるとは」
<しもべ>――ミラージュマンをデリートされた<主人>の焦りは、今や頂点に達していた。
「まずい、まずいぞ……このままでは」
このままオフシャルネットバトラーに逮捕されることになってしまったら、<主人>が今まで築き上げた地位と名誉が一瞬にして失われてしまうことになるだろう。
なんとしてでも、それだけは絶対に避けなければなるまい。
「くそっ、せめてこのデータだけでもヤツらの手に渡すものか!」
<主人>は急いで、机の上に置いてあるノート型パソコンのキーボードを叩き、パソコンの中のデータを全てPETへ移そうとした。
バンッッ!!!
この部屋の扉が勢いよく開かれ、二人の少年が入ってきた。
「!!」
振り向いた<主人>の目が大きくOの字状に開かれた。
「あーーっ!!??
この人………………『妖部バケル』!!?」
熱斗が驚愕の表情を浮かべ、そこにいた人物を指差す。
<主人>…………ピンクが基調のゴスロリを着たかなり太目の中年女性が、ぎくっと身をこわばらせる。広すぎるその額には、大粒の冷や汗が浮かび上がっている。
『『妖部バケル』…………って、あのホラー漫画家の?』
「ああ、こないだ発売された単行本のカバーに顔写真が載っていたから間違いないよ」
ロックマンの問いに、熱斗がうなずく。
「『妖部バケル』…………本名『獄怨寺はな子』! オフシャル権限で、お前を逮捕する!!」
炎山が厳しい表情と口調で詰め寄った。
すると、そのとき。
「オーーーーーーッホホホホホ!!!!!!」
いきなり『妖部バケル』が高笑いをあげた。
「よくここまでたどりつけたわね、貴方たち。さすが、私のミラージュマンを倒しただけあるわ!」
あっけにとられる熱斗たちを尻目になおも不敵な笑みを浮かべる。
「………………でもね」
と、パソコンに繋げていたPETのケーブルを引き抜くやいなや、
「この大事なデータは、死んでもずぇっったいにアンタたちには渡さないわよっっ!!」
栗色の縦ロールヘアーを振り乱しながら、もの凄い形相でPETを抱きかかえるなり二人めがけて突進する。
「うわっ!!?」
「くっ!?」
女性にしてはかなりの巨体から繰り出してきたタックルに二人は突き飛ばされ、場にもんどりうって倒れた。
「オーーホホホホホ!! オフシャルなんかにとっ捕まってたまるもんですかぁーーー!!」
『妖部バケル』が高笑いしながら、ワインセラーをものすごい勢いで飛び出していった。
『炎山さまっ!!』
「く…………」
『熱斗君!逃げられちゃうよ!』
「おう!逃がすかっ!!」
痛む尻をさすりながら熱斗は立ち上がり、慌ててその後を追う。
だが、台所に入った熱斗がみたものは意外な光景であった。
「……あれ?」
なぜか、台所の入り口近くの床に『妖部バケル』が大の字になって気絶していた。
その額には大きなたんこぶがついている。
そして、その傍らには………………
「あーびっくりしたぁ。お化けかと思ったわ………………」
あのスタッフとおぼしきメガネの女性がフライパンをもちながら、びっくりしたといった表情でつぶやいた。
こうして、秋原町を騒がせた「お化け屋敷」騒動はあっけない幕切れを迎えた。
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