「デカオがまだ帰っていないって、どういうことなんだ!?」
『お昼ごろに、おじいちゃんのお古のカメラを持ってお出かけしていったの。
でも…………夕ごはんになっても、兄ちゃんまだ帰ってこないの。
いくら電話しても、兄ちゃんのPETに繋がらないんだ…………』
通話スピーカーの向こうから聞こえてくる、チサオの声は今にも泣き出しそうな雰囲気であった。
「……も、もしかしてデカオのやつ、4丁目の『幽霊屋敷』へ行くっていってなかったか?」
『……………………うん。
兄ちゃんね、そこで”しんれいしゃしん”を撮って学校のみんなを驚かせるんだって言ってた』
「あのバカ…………」
昼間の学校でのやりとりを思い出して、熱斗は舌打ちした。
『どどどどうしよう…………?』
「大丈夫だ、チサオ。 デカオは俺が探してきてやるよ」
『本当?』
「ああ、必ず連れて帰ってくるから、
家でおとなしく待っていろよ」
『………………うん、兄ちゃんのことをお願い』
熱斗の言葉に安心したかのように、チサオは電話を切った。
通話モードを解除した熱斗は、すっくと立ち上がり、ソファの横においてあるローラーブレードを手に取る。
「ママ、俺ちょっとこれから出かけてくるよ」
「えっ!?熱斗、こんな遅くにどこへ行くの?」
ママが心配そうな表情で、熱斗を見つめる。
『デカオ君、まだ家に帰ってきてないんだって。大丈夫、すぐに見つけて戻ってくるよ!』
「二人とも、あんまり無茶しちゃだめよ」
「うん、わかった! 行こうぜ、ロックマン!!」
『うんっっ!!』
そういって熱斗は玄関のドアを開けると、
「熱斗!」「光君!」
聞き覚えのある声が、耳に飛び込んだ。
「メイル!?それにやいとまで!?」
家の前に大型の黒いベンツが止まっていた。
そのベンツの窓から、メイルとやいとが顔を覗かせている。
「お前ら、どうしてここに!?」
「私たちのところにもチサオ君から連絡がきたのよ。そうしたら、やいとちゃんがすぐに車をチャーターしてくれたのよ。熱斗もデカオ君を探しに行くだろうと思って……」
「4丁目まで行くなら、うちのベンツのほうが断然早く着くわよ。さぁ、光君も乗った乗った!」
やいとの言葉と同時に、後部座席のドアが開く。
「ありがとう、やいと!」
熱斗は迷わず、ベンツの中へ乗り込んだ。
熱斗たちを乗せたベンツは、軽快に夜の車道を走っている。
「ロックマン、デカオのPETに繋がらないのか?」
『うん、さっきから何度もやっているけど、繋がらないよ。
デカオくん、どうも強い電波障害が発生しているところにいるみたいだよ』
「電波障害か…………。とにかくあいつが例の『幽霊屋敷』にいることだけは間違いないようだな」
熱斗の言葉に、メイルたちもうなずく。
「それにしても、デカオ君が心配だわ。 怪我してなきゃいいのだけれど……」
心配そうに、窓の外を見るメイル。
「大丈夫よ、アイツはやたら頑丈な筋肉バカだからちょっとやそっとのことでは死にやしないわよ。 ま、どうせお腹がすいて一歩も動けないだけでしょ」
「無茶苦茶言っているなぁ、お前…………」
やいとの毒舌に、あきれ返る熱斗であった。
しかし、一見思いやりの無い言葉に聞こえるが、彼女なりにデカオのことをすごく心配していることは、熱斗たちにもよくわかっていた。
『やいとサマ、あと20分で目的地周辺に到達します』
「わかったわ、グライド。じゃ、”屯田兵”頼んだわよ」
グライドの報告を聞いたやいとが、ベンツの運転手に話しかける。
珍しい苗字の運転手は、眼鏡をキラリと光らせて、
「はい! お任せ下さい、やいとお嬢様。
皆様、かなりスピードを飛ばしますからしっかりとつかまってくださいね。
では…………いきますよっ!!」
と、思い切りアクセルを踏み込んだ。
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